レクチャーシリーズ+見学会
新・和室学2026
基本要素から読み解く日本住宅の美と文化
井上邸(アントニン・レーモンド設計)
和室は、日本人にとって当たり前の存在でありながら、失われつつある危機にあります。改めて和室の意味や成り立ちを知り、特徴を多角的に読み解くことで、その魅力を再発見したいーそんな思いからこの連続講座を企画しました。世界で日本にしかない「和室」という空間を専門家が深く語ります。
2026年度は、和室を構成する「要素」に注目し、その文化と歴史を辿ります。日本の住宅は、木造かつ柱と梁で構成される軸組構造を基本とし、多彩な建具により内と外を区分してきました。フレキシビリティの高い空間構成や、外部との連続性はその工夫によって実現されてきました。「和室」は、基本形は同じでも、柱や天井、建具のそれぞれの寸法や仕上げ、材料の細やかな選択によって、異なる空間を演出できます。そこに籠められた美意識や歴史的背景を読み解き、「和室」を一段深く理解します。
2026年度 会員募集
会期:2026年4月から10月
レクチャー4回+1日見学会1回
講師:
小沢朝江(東海大学建築都市学部 教授、現代・和室の会 副会長)
上西明(建築家、現代・和室の会 常任幹事)
主催・会場:ワタリウム美術館
協力:現代・和室の会
新・和室学2025会員の方、ワタリウム美術館 メンバーシップ会員の方には割引がございます。
ワタリウム美術館1F受付でもお申込いただけます。
◆スケジュール
見学会を除き、各回とも 金曜19:00-21:00
2026年
4月17日(金)第1回レクチャー
6月19日(金)第2回レクチャー
7月17日(金)第3回レクチャー
9月19日(土)見学会
10月23日(金)第4回レクチャー
4月17日(金)
第1回「日本住宅の基本要素と変遷―寝殿造から書院造まで」 小沢朝江
和室は、一般に書院造がその起源とされますが、一度に完成したのではなく、古代の寝殿造が生活や身分制度の変容、儀礼やもてなしのあり方に合わせて変えられ、到達したものです。その空間は、天井の高さや仕様、部材の寸法や材種、建具の使い分けなどにより、部屋の性格に応じて演出されました。第1回では、和室を形づくる基本要素に注目しながら、和室の成り立ちを通観します。
6月19日(金)
第2回「和室の要素① 柱―基軸と象徴性」 小沢朝江
「柱」は、木造の軸組構造を主とする日本建築において最も重要な要素であり、象徴や信仰など特別な意味が付与されてきました。大黒柱や棟持柱、床柱などもその一例です。また和室では、柱の配置が設計上の基本となり、どんな樹種をどこに用い、どのように加工するのか、手法も工夫されました。特に茶室や数寄屋造では、一室に多種の材を併用し、自然に見せるための繊細な仕上げが施されています。その美意識を、実作品を通して読み解きます。
7月17日(金)
第3回「和室の要素②建具―内と外の隔て方」 小沢朝江
「建具」は、内と外、部屋と部屋を区切る存在です。平安時代には唐戸や蔀が主でしたが、平面の変化に伴い引違戸が中心となり、使う場所に合わせて多様なバリエーションが工夫されました。さらに近代には硝子という新素材も加わって多彩な意匠が生み出されました。建具に描かれた障壁画は、部屋の機能や性格を示す要素として画題や画法に細かな規定が定められました。建具を通して、日本住宅の空間構成の特質を探ります。
9月19日(土)
見学会「松永耳庵 老欅荘(小田原市)」小沢朝江
老欅荘は、近代茶人松永耳庵(安左衛門)が昭和21年(1946)に小田原に営んだ住宅です。創建当初は、戦時下の建築統制により20坪ほどの小さな住宅でしたが、3度の増築を経て現在の姿になりました。本来は不足を補うための増築を意匠に転換する手法が秀逸で、部屋ごとに材の選択や天井・建具の意匠が異なります。「日々是茶」の精神を具現化した住宅を、庭と共に鑑賞します。
10月23日(金)
第4回「海を渡った建築家の和室」上西 明
帝国ホテル建設に伴い、フランク・ロイド・ライトのアトリエスタッフとして、欧州より来日したアントニン・レーモンド。日本家屋に多くの示唆を得たレーモンドの自邸は、畳を敷き詰めることはありませんでしたが、和室のエッセンスともいえる「柱」「天井」「建具」の要素を巧みに組み合わせたものでした。レーモンドの作品に魅せられ、彼の事務所に入所した吉村順三は、独立後に、ロックフェラー家のための家をニューヨーク郊外に設計しました。その家もまた、端正な和室というべき部屋群を、畳を敷き詰めることなくデザインした住宅でした。それらの作品を通して、日本と海外の人と文化の交流から生まれた、和室デザインの精華を見ていきたいと思います。
◆講師紹介
小沢朝江(おざわ・あさえ)東海大学建築都市学部 教授、「現代・和室の会」副会長
1963年生まれ。神奈川大学大学院修士課程修了。博士(工学)。著書に『日本住居史』(共著、吉川弘文館、2006)、『明治の皇室建築―国家が求めた〈和風〉像』 (吉川弘文館、2008)、『住まいの生命力 清水組住宅の100年』(共著、柏書房、2020)、『和室学』(共著、平凡社、2020)、『和室礼賛』(共著、晶文社、2022)、『大地と生きる住まいー開墾地にみる農村住宅の近代化』(共著、創元社、2024)など。
上西明(うえにし・あきら) 建築家、「現代・和室の会」常任幹事
1959年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。槇総合計画事務所を経て、上西建築都市設計事務所を設立。主な作品に、奈良県医師会センター、岩尾整形外科医院、大田区うめのき園分場など。共著に『ヒルサイドテラス白書』(住まいの図書館出版局,1995)、『都市のあこがれ』(鹿島出版会,2009)、『劇場空間への誘い』(鹿島出版会,2010)、『和室学』(共著、平凡社、2020)、『和室礼賛』(共著、晶文社、2022)。
「現代・和室の会」
「和室文化」を総合的に把握し、その固有の価値や多義的意味を解き明かしながら、次世代への継承と無形文化財としての国際認知を目指す団体です。和室と関わる多方面の研究者や行政、設計者、職人・生産者等で構成し、セミナー・見学会等の活動を行っています。
