レクチャーシリーズ+見学会

新・和室学2024

世界で日本にしかない空間

和室は、日本人にとって当たり前の存在でありながら、失われつつある危機にあります。

和室の意味や成り立ちを知り、特徴を多角的に読み解くことで、その魅力を再発見していく企画です。日本にしかない「和室」という空間を、各分野の専門家が深く語ります。

2024年度 会員募集

会期:2024年4月から9月

レクチャー4回+1日見学会1回

講師:

松村秀一(早稲田大学理工学術院総合研究所上級研究員・研究院教授)

服部岑生(千葉大学名誉教授)

小沢朝江(東海大学建築都市学部教授)

桐浴邦夫(京都建築専門学校副校長)

内田青蔵(神奈川大学建築学部特任教授)

 

企画・会場:ワタリウム美術館

2024年4月26日(金)        

第1回「和室学のススメ&和室のメタファー」松村秀一&服部岑雄

和室学のススメ

和室は日本建築固有の空間であり、世界に類を見ない様々な特長を持っています。今回は何よりも先ず、この世界に類を見ない和室の特長というのはどのようなものかをお話します。そして、その和室が新築の現場から急速に減少している実態を明らかにしてお伝えすることも、今回のお話の重要なパートです。この残念な和室の衰退傾向を踏まえた上で、和室を次代に継承していくには一体どうすれば良いのかもご一緒に考えたいと思います。(松村)

 

和室のメタファー

和室を、まるで「 ×× 」のようだと言い換える、そのメタファー喩えの「××」を楽しく歴史をたどりながら想像し、和室の深層を理解したいと思います。ヒントには、日本人の和室は、畳と屋根及び建具で出来ていますが、その特長に鍵があります。エジプトの古代では、石の部屋で王は椅子に座っていました。近い過去では、明治に描かれたビゴー(仏・画家)の絵で、日本人は畳に座り外国人はテーブルに椅子を使い対談しています。人ごとの部屋のメタファーを暗示しています。(服部)

 

2024年5月31日(金)        

第2回「和室の成り立ち」小沢朝江

和室は、一般に「書院造」がその起源とされます。ただし、その形が一度に完成したのではなく、古代の寝殿造が生活の変化や身分制度の変容、儀礼やもてなしのあり方に合わせて変えられ、到達したものです。その空間は、使い方の自由度が高い一方、天井の高さや仕様、部材の寸法や材種、壁や襖を彩る障壁画などにより、部屋の性格に応じて演出されました。この和室の成り立ちと、その空間をコントロールする規範の存在を、かたちと人のふるまいの両面からみていきます。

 

2024年6月28日(金)

第3回「茶の湯空間と自然」桐浴邦夫 

茶は大陸から伝えられた文化でした。しかし、やがてその形式は日本的な茶の湯文化へと大きく変化しました。その意味で、国際的であり国粋的なのです。ここでの国粋とは本来の意味であり、偏狭な排外的なものではなく、グローバルでかつ日本固有の美点を尊重する視点です。その空間の歴史をみると、日本人の自然観が大きく影響したことが理解されます。自然とどう向き合ってきたのかという大きなテーマに、「市中の山居」「わびすき」「きれいさび」などの言葉をキーワードに、茶の湯空間の変遷をたどっていきたいと思います。

 

2024年7月20日(土)

見学会 「鎌倉・旧山本条太郎邸+旧田島屋材木店」小沢朝江

旧山本条太郎邸は、京都の数寄屋師・笛吹嘉三郎の設計による近代別荘建築であり、書院造と数寄屋造を対比でき、かつ時代の異なる2つの茶室を備えます。鎌倉の海の眺望と庭、建物の連続性も魅力です。一方、旧田島屋材木店は、地元大工による関東大震災後の和風住宅で、材木商ならではの良材と木太い意匠が特徴です。背景や職人が異なる2つの和風住宅を比べてみてください。

 

2024年9月27日(金)  

第4回「近代和風住宅にみる和室」内田青蔵

戦前期の近代和風住宅を見ていくと、1つの住宅の中に設計基準寸法が6尺5寸(京間)と6尺(江戸間)を併用したものや、中には6尺5寸(京間)、6尺3寸(中京間)、6尺(江戸間)の3つの寸法を併用した住宅も存在している。設計の合理化や材料の扱いから見れば、極めて不自然な設計だが、そこには和室の用途に合わせて設計基準寸法を変えるという設計手法の存在が想起される。本講義では、そうした事例を紹介しながら、近代和風住宅に見られる特殊な設計手法の存在について考えてみたい。

 

 

講師紹介

松村秀一(まつむら・しゅういち)早稲田大学理工学術院総合研究所上級研究員・研究院教授。

1957年生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京大学講師、助教授、教授、特任教授を経て2023年より現職。HEAD研究会代表理事、建築技術支援協会代表理事、団地再生支援協会会長。主な近著に『新・建築職人論−オープンなものづくりコミュニティ』、『建築の明日へ』、『空き家を活かす』、『ひらかれる建築−『民主化』の作法』等。

 

服部岑生(はっとり・みねき)千葉大学名誉教授

1941年生まれ。東京大学大学院工学研究科博士課程修了工学博士、NPOちば地域再生リサーチ顧問。著書に『イギリスの集合住宅の20世紀』(鹿島出版会、2000)、『間取りの世界地図』(2002,青春出版)、『世界の住まいと暮らし』(放送大学出版振興会、1999)、作品に定借近衛町アパ−トメント、多摩ニュータウン若葉台、海浜ニュータウン稲毛海岸3丁目団地リノベなど。

 

小沢朝江(おざわ・あさえ)東海大学建築都市学部教授

1963年生まれ。神奈川大学大学院修士課程修了。博士(工学)。著書に『日本住居史』(共著、吉川弘文館、2006)、『明治の皇室建築―国家が求めた〈和風〉像』 (吉川弘文館、2008)、『住まいの生命力 清水組住宅の100年』(共著、柏書房、2020)など。

 

桐浴邦夫(きりさこ・くにお)京都建築専門学校副校長

京都工芸繊維大学大学院修士課程修了。博士(工学)。著書に『近代の茶室と数寄屋』(淡交社、2004)、『茶の湯空間の近代』(思文閣出版、2018)、『茶室露地大事典』(共著、淡交社、2018)、『世界で一番やさしい茶室設計』(エクスナレッジ、2020)、『和室学』(共著、平凡社、2020)、『和室礼賛』(共著、晶文社、2022)、『a+u/茶室33選』(編著、2022)など。

 

内田青蔵(うちだ・せいぞう)神奈川大学建築学部特任教授

東京工業大学大学院理工学研究科博士課程満期退学。工学博士。東京工業大学附属工業高校、文化女子大学、埼玉大学を経て、神奈川大学教授。2022年3月に退職し現職。著書に『あめりか屋商品住宅』(住まいの図書館出版局,1987)、『日本の近代住宅』(鹿島出版会,1992)、『新版図説 近代日本住宅史』(共著、鹿島出版会、2008)ほか多数。

 

いずれも「現代・和室の会」発起人

共著に『和室学ー世界で日本にしかない空間』(平凡社)、『和室礼讃ー「ふるまい」の空間学』(晶文社)